石の家族
「どっこいしょ」
勇太は太田川の浅瀬からコッペパン3個あわせた位の石を拾い、顔を真っ赤にして河原に置いた。紺色の水泳パンツ姿だ。
「チーコ見て、見て。亡くなった爺ちゃんの顔に似てるやろ」
黒縁がかった石の一ヶ所が二等辺三角形にとんがっている。
「ほんま、爺ちゃんの鼻そっくり!」
と千美子はキャッキャと笑って答えた。
「ねえ兄ちゃん。婆ちゃん、父ちゃん、母ちゃん、私達の石も集めようよ」
「おう、面白い、やろう、やろう。チーコも危険な所はさけて探せ」勇太はブルブルと腕を回した。千美子も水着姿だ。
学校は夏休み。小六の勇太、小四の千美子二人は初めて子共だけで大阪から母の故里、太田川の流れる広島の奥座敷加計(かけ)にやって来ていた。
千美子は川原を少し歩いて真丸の小さな白い石を見付けた。コロンとしたゆで卵の様だ。(これ私に似ていると思うんだけど)と拾った。勇太は水面に顔を近づけ濃い緑がかった黒い石を見付け、すくい上げた。かなり重い。
「こりゃ、父ちゃんやな。チーコ」
勇太はゴルフ焼けの父ちゃんの顔を思い出しチーコと顔を見合わせ笑った。
次は母ちゃん石と婆ちゃん石だ。
二人は三つの石をかためて置いて岸辺を上流へと歩いた。川の向こう岸には、菜の花や、ひまわりが咲き誇っていた。(夏だぞ、思いっきり汗をかけ)と言っているみたいだ。
母ちゃんと婆ちゃんの石はうす茶色した黒のテンテンのある花岡岩に決めた。ホットケーキの様に平たい。
「あとは俺」とデコボコの多い、暴れん坊の様な石を潜って取ってきて勇太は満足そう。
200mの坂を登り、手押し車を持って来て六つの石を乗せ家へ帰った。
庭にサルスベリがあり、その横が空地なのでそこに石を円形に置いた。何か石の家族が出来た様で二人共ウキウキしていた。チーコが三色スミレを石のサークルの中央に飾った。
夜寝間(ねま)に入った二人は暫くして
「ユータ、チーコ庭へおいで。おいで」と言うかすれた爺ちゃんの小さな声に気付いた。
「何? 今の」二人は懐中電灯を持って石の家族の所まで行った。光の中で石達が笑っている。お喋りしている。
「私達、離れ離れで淋しかった。一緒にしてもらってありがとね」と石の母ちゃんが言った。
チーコが急いで寝ている本物の婆ちゃんを連れてきた。婆ちゃんの驚いた事、驚いた事。月の光の中三人と五個の石が笑っている。本物の婆ちゃんの目に涙が光っていた。
-fin-
テーマ:「どっこいしょ」と言う言葉を始めに使う
平成二九年十二月