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三種の神器

 パソコンのネット販売が驚く程普及している。我が家でも夫が頻繁に利用し、宅急便の「ピンポーン」が度々鳴る。配達人は「奥さーん、印鑑押しました」と声だけ残して、私が二階から降りて行く途中でドアは閉まっている事も多い。
「お父さん、又何を注文したのよ」
 おつまみが多いが、ユニークなのが三点。
 第一は『レーザー距離計』5、5㎝×13㎝×3、5㎝でテレビのリモコンの分厚いものと考えたら良い。重さは157g。中国製でgeanee(ジニー)と言う可愛い名が付いている。三千円位したそうだ。
 天井の高い会館に入ると、夫は早速ジニーを取り出し床に置き、ボタンを押すと赤いレーザーが走り天井に丸い点が付く。
「フーン、上まで5mもあるのだ。部屋がすっきりしている様に見えるはずだ」
 と嬉しそう。次に反対側のドアに向いてジニーを水平にすると15mと数字が出た。
「弦楽四重奏の演奏に相応しい広さだ」
 と夫は悦に入っている。
 私は「フーン」と愛想のない返事をし、両手を広げ大欠伸をした。
 第二は『高度計』黒で7㎝位。気圧の上下で海抜をはかる。上に小さな磁石がついている。八千円したと夫。
 春のある日。野山を車で走って、奈良の遠縁の叔父の所へと出向いていた。新緑の香りが車中溢れていてとても気持ちが良い。
「ところで、瑛子、ここは海抜何メーターだと思う?」と、夫が車を止め問いかけてきた。
「うーん、300m」私は木の葉の照り返しが眩しくて、目を細めて答えた。
「違いました。200m」と得意そうな夫。
 第三は『壁裏センサー』だ。15㎝×7㎝大。私が皿を洗っている前で、やおら壁裏センサーを夫は壁に押しつけた。ザラザラと擦る音だけがする。次に右に30㎝離れた所にピタッとくっつけると、器械に赤い灯がつき(金属)という字が光る。場所を変えると、(木芯)という字が光る。
「はーそうか金属の部分を除いて、(木芯)の上から釘を打ったらいいのだ、ここに俺の絵を飾ろう」と夫は嬉しそう。私は吹き出した。

 さて、現在この三器は役にたっているのだろうか。ほとんど出番はない。
 人の個性、嗜好はそれぞれで、欲しい物も海と山ほど違う。夫はやはり理系の人間なので数字できちんと知り把握したいのだろう。 私は感覚で良く言えば感性で判断するのだ。
 三種の神器ならぬ三種の珍器は、普通の家ではめったに無いと言う事で、小川家の三種の神器と言っておこう。

-fin-

テーマ:買い物
平成二七年一月

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